リボーン!

 

 

 

 

 

綱吉は、あらん限りの声を絞り出し、最強のヒットマンの名を叫んだ。

一瞬、彼の動きが止まった。が、背は向けたまま。再び、歩みを進めてゆく。

 

「リボーン!リボーン、リボ」

「十代目」

獄寺が綱吉を羽交い絞めにした。「落ち着いてください」と耳元で囁かれ、綱吉は頭が真っ白になった。

落ち着け、だって。

ふざけるな。

周りの部下たちが僅かに哀れみを含んだ視線でボスを見ている。が、彼は構うこと無く叫び続けた。

ずっと一緒に戦ってきた、恩師の名を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一ヵ月後、綱吉の元へ戻ってきたのは、木箱に入った彼の腕だった。

獄寺隼人の頭頂部を眺めながら、綱吉は呼吸をしようとした。だが、思うようにうまく、息を吸うことができない。

「申し訳ありませんでした」

獄寺は、どのような顔をしたらいいのか、何と声をかけたらいいのか、わからなかった。

あの時敬愛するボスを止めなければ、違った結末も生まれたのだろうか。

頭を下げながら考えても解るわけがなかった。

 

 

「獄寺」

 

 

「十五分以内に、此処から出て行け」

「」

「ファミリー全員に伝えろ」

怒りとも、憤りとも、違う何か。静かなようで波打つ声。

 

嵐の前の静けさ。そんな言葉が、獄寺の脳に浮かんだ。

 

 

 

 

喧騒が聞こえる。己の命令に訳もわからず、ただ素直に従う部下たち。

「いい人達だね、リボーン」

綱吉は箱を覗き込みながら、呟いた。処理をされ、臭いもわからないその腕は、今にも動きそうだ、とジッと見つめても何も変わらない。

「何で、・・・・・・・・お前だったんだろうねえ」

ファミリー至上最大と言われる戦いに終止符を打ったのは、己の家庭教師だった。見事に壊滅させた代償は、彼の、右腕から先全ての体。

以前対峙した覚えのある相手は、己を通り越して背に居る家庭教師に視線を向けていた。憎憎しげに、とても禍禍しく。

(私怨か)

弱々しく頭を振った。きっかけなんて今更だ。だってもう全て終わってしまったんだから。全て。

 

「オレはねえ、お前もアイツも皆もオレも悪いと思うんだよね」

そっと呟いた声は誰にも届かない。

綱吉は微笑んだ。

「母さん、ごめんね」

在りし日の会話がすぐそばで聞こえたような気がした。一番幸せだったあの頃。

 

 

 

近くの小高い丘まで足を伸ばした面々は、屋敷を見ていた。

「・・・・・・獄寺。やっぱり」「俺だってどうしたらいいのかわかんねー」

山本を遮り、獄寺は呟いた。ただ、敬愛する人が心配だった。ボスであり、親友であり、そっと想いを寄せていた人が。

けれど、あの時の彼の声にはそんな己でさえも素直に従わせる何かがあった。ただの感情を超えた恐ろしい何か。

獄寺は初めて、主が怖い、と思った。

 

突然、

 

地響きとともに轟音が鳴った。

 

皆、一斉に屋敷を見た。建物は崩れ落ち、姿を変えていく。

「ボス」

誰かが呟いた。だが、皆足を動かすことは出来なかった。

立ち昇る煙は大きく、天に昇る竜のように形をつくっていく。獄寺は崩れ落ちた。

「じゅ、」

「おい、あれ見ろ」

山本の声に、気力を振り絞って目を凝らす。

「―――!」

 

屋敷から出てきたのは一つの小さな影。

体中から炎を出し、それは恐ろしく美しい、けれど、ぞっとする光景だった。

爛々と燃え上がる瞳。静かに歩む足取り。揺れるように歩く様は、この世のものでは無いように見える。

口の端が僅かに上げられたのを、獄寺は見逃さなかった。背筋に冷たいものが走る。

首から何かをぶら下げている。

腕だ、と気付いた。一瞬にして、全身の毛が逆立った。

「―――――俺達は、」

震える声は誰のものだったか。この時、皆、強く同じ感情を抱いた。

純粋な恐怖。

「とんでもねえ、化けモンをつくっちまったのかもしれねえ」

 

 

これは序章。

 

 

魔王、降臨。

 

 

 

(流血グロ表現等有り、注意)