時計の針を確認して、次に鏡で目の下に薄らと出来た隈を確認した。

(・・・・・・・・・)

初めに電話が掛かって来てから、五日目である。もう時間も覚えてしまった。午前三時十五分に、その電話は掛かってくる。

時刻は三時十四分。と四十五秒。あと少し。

「・・・・・、ご、よん、さん、にー、いち、」

 

ブルル、ブルル、ブルル、

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・もしもし」

『チャオ』

ブチッ、っと、何かが切れる音が遠くで聞こえた。それが己の脳みその血管だと考える余裕もなく、綱吉は叫んでいた。

「うぜえ!」

『真夜中にうるせーぞ』

「テメーが言うなこの糞野郎!」

言葉遣いが大家の兄ちゃんに似てきている。顔にでっかい傷のある、や●ざもビビって逃げていく形相の恐ろしいお兄さんである。

「お前、何だよ、ほんともう何なの!?この暇人!」

『わざわざ人が掛けてやってるってのに』

「かけて、やってる!?」

綱吉は生まれて初めて、電話越しに人を呪えたらいいのにと願った。

「毎晩毎晩何のつもりなんだよ、ていうか、本気で勘弁してほしいんだけど・・・・・・」

『律儀だな』

「・・・・・・・・」

『一々取るお前もお前だぜ』

「着歴84件も残しといて、どの口がほざくんだよ!」

二日目の夜、震え続ける電話を無視して寝て起きた後、ディスプレイを見て震え上がった。こんなに恐ろしく感じたのは、つい最近では大家に家賃を催促された時以来だ。いたずらにしては性質が悪すぎる。

「・・・・・・せめてこんな夜中じゃなくて、もっと気ぃ使えよ・・・」

『声が』

「は?」

『声が掠れてクるから、夜中のがいい』

ブヂッ!!

思わず息を荒げながら、通話をオフにした。手元からみしりっと不吉な音が聞こえたが無視。

言っている意味は不明だったが、なぜか恐ろしく鳥肌が立ってしまった。

緩慢な動作でベッドに潜り込むも、なかなか寝付けない。

「・・・・・・・・・・・・・」

遇ったら絶対にとっ捕まえて、警察に突き出してやる。

がんがんと鳴り響く脳みそのどこかで、決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「さ、沢田さん・・・・・」

獄寺がおろおろと背を擦っている。なぜか嬉しそうな表情に突っ込む元気も無く、綱吉は控えめに手を払った。

「だいじょうぶ、次、講義でしょ。適当に待っとく」

「・・・・・・無理しないで下さいね。もし帰られるのであれば、メールください」

差し入れ持っていきますんで!と微笑む美形に緩く笑い返し、綱吉は歩き出した。

眠い。ものすごく、眠い。

ここのところ、睡眠時間は普段の半分以下である。どっかの変態馬鹿のせいで、平々凡々だった生活がだんだん最低になっていく。

それにまた苛々とする。

綱吉は疲れていた。

安らぎが欲しい。あの男に邪魔されることのない、穏やかな日々がほしい。

 

ぼーっとした頭でそんなことを考えていると、いつの間にか裏庭に出ていた。

一番奥の教養棟、その裏は、人通りも少なく静かである。そしてこの日は日差しがとても穏やかで、緑の真ん中にぽつんと佇む白いベンチは、綱吉を素敵な世界へと連れて行ってあげるよと誘いかけているようであった。

「・・・・・・・・・・・・・・」

何の戸惑いもなく綱吉は倒れこんだ。すぐに意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

くすぐったい。

緩く顔を動かすも、感触は離れようとしない。

もどかしくて、体ごと動かした。

小さく笑い声が聞こえた気がしたが、無視してそのまま寝続ける。

すごく気持ちいい。髪の中を滑る指が頭皮をなぞる感触。微かに伝わる人肌の温もりと、柔らかい日差しの暖かさ。

もしかして、天国かもしれない。

「ん」

やばい、何か、

めっちゃ気持ちイイ・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・、ん、っ、う・・・・?」

妙に息苦しくて、綱吉は重い瞼を薄らと開いた。途端、頭から衝撃を受け、あまりの驚きに全身が勢い良く跳ねた。

「ん、ン―――ッ!?」

口の中で何かが動いている。蠢いている。嫌だ、もの凄く気持ち悪い!

綱吉は手足をばたつかせた。が、正体不明の生き物の元凶―――圧し掛かっている何者かは全く動じる気配は無い。

勢い良く吸い上げられて、舌の根がジンと痺れて、とても苦しい。意図せず涙が目尻から零れる。

でも逃げられない。頭を思い切り掴まれているからだ。くちゅ、と聞こえた音に、頭の中が真っ白になった。

綱吉は、無我夢中で背を叩いた。するとフッと息を吹き込まれ、黒い影は遠のいた。

「ぐほっ、げっ、う、うう・・・・・・・・・・ッ」

「つれねーなあ」

 

 

綱吉は固まった。

 

この顔、

ていうか、

 

 

この声。

 

 

 

「―――――――――――――――!!!!!!」

 

「チャオっす」

 

 

 

どっかの変態さんは、学内一の有名人だった。