男は、最低な気分だった。
アイツが入部してから、4番だったオレのポジションはアイツに奪われた!後輩のクセして!
今日も、ベンチでずっと山本が三振するのを祈っていた。無意味だったけど。
子供じみた妬み、そして少しの羨望、何よりも許せないのは自分の力への疑い!
舌打ちして球場を後にしようとした時、後方からにぎやかな声が聞こえてきて、思わず振り向いた。
途端に苦い顔をする。アイツラだ。
「今日の山本くん、すごかったねえ!」
「いやー、俺もあそこで打てるとは思わなかったぜ」
「とか何とか言って、最後には必ず決めちゃうんだもんな、すごいよ!」
「そっか?ありがとな!」
「くっそー、相手チームがヘボすぎたんだぜきっと!」
「野球もいいがな、ボクシングも最高だぞ!!」
「山本武、次は私と対決しなさい」
「ひー!またビアンキが変な対抗意識を・・・!あっこらランボ、あんま暴れんな!」
ムカムカする。応援席でも、いつもアイツらだけ耳障りだと思う。
山本、山本って、並中野球部は山本だけじゃねっつーの。
さらに嫌な気分になって、踵を返したとき、山本の声が聞こえた。
「・・・・・・・・なー、ツナ、最後さ、俺がバッターボックスに立ってた時、叫んで応援してくれたろ?」
「えっ、聞こえてた?恥ずかしいなあ」
「うん、聞こえた」
「マジでさ、頑張れって思ったから、ちょっと叫んじゃったよー」
「アレで俺、ホームラン打てた」
「!そ、んな、大げさだよー!」
「いや、ホントに。ツナの声が聞こえてさ、頭がスッと冴えてさ、視界にボールしか見えなくってさ!
こう、ギューンときて一瞬止まってグルッってなって、そっからは俺の独壇場で、ザッとなって思いっきりスコーンって」
「(でたー!山本的感覚!)あ、そうなんだ!
でも嬉しいなー、そんな風に言ってくれたら、オレこれからもめっちゃ応援するよ!」
「おう、よろしくな!」
(・・・ツナ?あのダメツナ?)
思わず振り向いた、二度目だ。
入り口付近には、ダメで有名な沢田綱吉と、満面の笑顔の山本がいる。
(・・・あの二人って、トモダチだったんだ)
(しかも、山本は結構沢田のこと気に入ってるみたいだな)
男は、口の端を上げた。目は笑ってはいなかったが。
いい憂さ晴らしの対象を見つけた、と思った。