男は笑いを抑えることが出来なかった。
今頃、沢田綱吉はボコボコにやられているはずだ。
山本は、どれくらい傷つくのだろうか。
ニヤつきながら校門に向かっていた。
「センパイ」
吃驚した。
まさかこんなところで出会うなんて。
何時もなら「ちゃんと頭下げて挨拶しろ!」と教育的指導を行うのだが、男は焦っていたのでそんな余裕もなかった。
「山本、今帰りか?」
「センパイ、国語は得意ですか?」
いきなりなんの脈絡もない質問をされた。
男が面食らっていると、山本はにっこりと微笑みながら近づいてきた。
だが、目は笑っていなかった。
「『取り返しがつかない』、って言葉、知ってますか?」
あと、『地雷』って言葉も。
手にはバットが握られていた。なぜか血がついている。
男は真っ青になった。
だが、山本はバットを捨てた。
「アンタだけは、素手でやりてえなあ」
ばき、と手を鳴らしながら、死神がニヤリと笑った。
「悪り!遅くなった」
「山本!」
「てめえ、十代目を待たせるな!」
綱吉はホッと息を吐いた。
山本はいつも通りに見えたが、どことなく雰囲気が違うように感じた。
「ツナ、大丈夫か?」
山本の瞳が、黒く光っていた。すこし、濡れたような瞳。
「うん、大丈夫だよ」
安心させるように、綱吉はニカッと笑った。
「そっか」
山本がホッとしたように柔らかい顔になった。
「じゃあ、帰ろっか」
「俺、十代目の鞄持ちます!」
「じゃあ俺はツナを担ごうっと。オヒメサマだっこがいい?」
「何言ってんの山本ー」
「てめえ、果たす!」
お大事にー、という教師の言葉を背に、ぎゃわぎゃわと賑やかに騒ぎながら、三人は帰路に着いた。